フェイスシールドを付け、窓の外を見る。空はまるで青く、換気のため開け放った窓を吹き抜ける風は、 まさに5月。そんな春真っ盛りでも、駐車場に車はなく、もちろん待合室には患者もいない。医師生活 40数年のキャリアの最後にまさかこんなパンデミックに巻き込まれるとは。
クリニックでも小児科のほか呼吸器アレルギーを標榜していることから、成人の発熱、呼吸器症状 のある患者がやってくる。その中でこれはという症状があって、PCR検査を依頼した症例はこれまで に5件である。
・東京名古屋を行き来する観光バスの運転手、3日の高熱と咳、倦怠感あり。検査されず。
・高知から里帰りした乳児。4-5日の高熱と咳。保健所に連絡するもかかりつけ医でいいと言われた。風邪薬で様子見。高知でクラスターがあった直後なので、診察に大いに不安。
・高熱4日咳、息苦しさある40歳女性、保健所から感染外来に紹介。肺炎あり。ようやく初めてしていただいたPCR検査は陰性。
・休校中に微熱が2週間続く14歳女児、診察と検査依頼するも連絡返答なし。
・関東から野球留学で3月末にやってきた16歳高校生。直後から高熱が10日以上続き、感染外来に紹介、PCR検査陰性も肝機能障害が残り、運動不能。EBウイルス感染症なども考えられた。引き続き経過観察中。
新型コロナの日本上陸以来4か月、人々はコロナ感染の不安と恐怖と自粛要請に支配され、患者は受診を控え、我々も受付にナイロンフェンスを設置し、手作りのフェイスシールドを付け、アルコール、次亜塩素酸などの消毒を繰り返すも外来は前述の有様。わが息子は感染患者の多い大阪の大学病院で呼吸器内科に所属し、4月初めから新型コロナの重症患者を担当している。治療はアビガン中心でほぼ改善するが、呼吸器が長くなる患者では陰性になっても、最早元の状態には戻らず気管切開をする患者もいるとか。目に見えぬウイルスとの戦いは、怖さと煩わしさの繰り返しである。好きなゴルフにも行けぬ。この状況からいつ解放されるのか。窓の外はそんなウイルスに翻弄される人間をあざ笑うかのように、これでもかの五月晴れが続いている。
善通寺市 西川 清