2020年9月「コロナ禍 -緩和ケア病棟の苦悩-」


 

  新型コロナウイルスは医療現場に様々な影響を及ぼしているが、末期がん患者が穏やかな死を迎えるために終末期を過ごすホスピス緩和ケア病棟にも大きな影を落としている。

 

  院内感染防止のための手段として家族との面会制限を行わざるを得ないことで、本来のホスピス緩和ケアを行えない事態が生じている。

緩和ケアは、「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者・家族のQOLを、(中略)、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチ」と定義され、「患者・家族を中心としたケア」が重要である。つまり患者だけではなく家族も対象に含めて、そして家族とともに行うケアである。「限りある残された時間をいっしょに過ごしたい。」「そばにいて少しでも寂しさや辛さを分かってあげたい。」という思い、大切な人とのつながりが新型コロナによって断たれている。

 

  ほとんどの緩和ケア病棟で、家族の写真やメッセージカードを病室内に掲示、ノートでのやり取り、スマートフォンやタブレットを活用したオンライン面会、看取りまでの期間によって面会の基準を調整する等の取り組みがされているが、決して十分な満足が得られるものではない。在宅での療養を実現するための支援を行っていくことも一つの方法、役割である。

 

  当院での実例として、山間部に夫、子どもと暮らす40歳代の患者が、倦怠感と疼痛を訴えて緩和ケア外来初診当日に緩和ケア病棟入院となった。症状がある程度緩和され、病院の感染予防対策のため付き添い・面会がままならないことから在宅での療養を希望された。幸い患家の近隣の(と言っても結構距離はあるが)病院が最近訪問診療を開始したとの情報を得て、合同カンファレンスを持ち退院。最後は病院での看取りとなったが、直前まで訪問診療、訪問看護を利用して10日あまりを自宅で家族とともに過ごすことができた。

 

新型コロナの感染は長期化し、根気強い備えが必要になる。感染予防と患者・家族の思いに寄り添うこととの両立という課題にどう向き合っていくか、苦悩はまだまだ続きそうである。         高松市 蓮井宏樹