2021年7月「コロナ禍のオリンピックと無低診」


                                  

半年ほど前に定期通院中の70歳代の患者さんがうれしそうにオリンピックの観戦チケットに当選したことを話してくれた。大のバスケットボールファンで、実業団チームの熱心なサポーター。高校生の選手たちを家に招いてごちそうしたり、宿泊場所を提供したり。

 

それも新型コロナの流行で難しくなって、次に診察に来たときには、こちらの「オリンピックには行かない方が安全では・・。」との声も聞こえないようで、観客数制限で再抽選がいつになるのかやきもきされていた。そして結局無観客。その後まだお会いしていないが、落胆ぶりが目に浮かぶ。(気の毒に思いながらもほっと胸をなでおろす。)

政府や組織委員会の右往左往、迷走ぶりがリーダー不在のドタバタ劇を思い起こさせる。いったい何のための、誰のためのオリンピック? 東京で仕事しながら子育て中の娘からのメール「こんな状況でやるオリンピック、本当意味わからないですね!」

 

コロナ禍で11万人以上の人が解雇や雇い止めにあった。ハローワークを通じての調査なので実際はもっと多い。現在も飲食業や、宿泊・観光業などを中心に非常に厳しい状況にある。生活が苦しいなか、経済的な理由や感染を恐れて社会的に孤立し、必要な医療までたどり着けない方が増えている。自分たちの周りにもそういう医療難民がいないか、6月初めに職員がチームで自立支援センター、社会福祉協議会、地域包括支援センターを訪問し話を伺った。当院で実施している無料低額診療事業(無低診)について熱心に耳を傾けていただき、その後の相談や紹介につながった。訪問した若手職員の感想からは医療者として成長する貴重な経験になったこともわかった。そして、紹介された方のなかには生命の危機が逼迫しているようなケースもあり、福祉や行政との連携の重要さをあらためて感じさせられた。

 

この会報が出るころ東京オリンピックはそれなりに盛り上がっているかもしれない。しかし、新型コロナ感染は収束の気配はなく、感染爆発の恐れもある。光よりもはるかに大きな影の中で苦しむ多くの人々に寄り添うことが医療者の使命であると強く思うこの頃である。

 

 

高松市 蓮井宏樹