2022年3月号「バレンタインデー」


 

前に勤務していた病院のころから開業後もずっと通ってくれている発達障害のある女の子。出会った当初はまだ8歳でしたがもう15歳。思春期真っただ中で普段の会話は少なくなってきました。それでもこの時期になると手作りお菓子をメッセージ付きで持ってきてくれます。今年は「先生はすてきなジェントルマン!」と書いてくれていました。15歳女子にそう見えているのであれば白衣の下で10kg近く増量したおなかはまだ隠せているということでしょうか。ばれないうちにまた元の体形に戻さなければ。

 

そんな彼女も出会ったときは歯医者が怖くてどこに行っても治療ができない子でした。待合室で大泣き。パニック。小児科や耳鼻科でも同じ。どこでも抑制下で診察していたようでここでも同じことされると思っただろうし、白衣の大男が近づいてくるんだからそりゃ怖かったでしょう。

 

こんな時はとにかくその子の不安を軽減することを考えます。

 

痛みはなく緊急性がない状態であれば口の中を完璧に診ることより、とにかく今日は不安なことはないよと思ってほしい。となれば低い椅子に座って白衣も脱いでミラーも歯ブラシも片付けて、とりあえず手を繋いで対面であーんだけしよって声かけすると大抵クリアできます。

 

今までどこいっても嫌な思いをしてきたのなら、その経験を逆手にとって逆のことをしてあげると恐怖刺激を消失させることができる場合があります。これをレスポンデント条件づけといい行動調整法の中でも不安軽減法の一つに含まれる手法です。

 

パニックの子がいたら今まで嫌な思いをしていないか聞いてむしろここで逆アプローチしたらヒーローになれると前向きに捉え、過去にがんばって抑制下に治療してくれた先生たちの想いも尊重し、ここでは楽しく歯科に通ってもらえるようにしてあげたいという気持ちでその子に合う方法を探ってみてはいかがでしょうか。

 

                                          高松市 三木武寛